学術コンテンツAcademic contents
2024.01.10
受賞演題名
3-ケトジヒドロスフィンゴシンの立体解析法開発と Sphingobacterium SPTによる代謝産物への応用
研究概要
セリンパルミトイル転移酵素 (SPT) は、L-セリンとパルミトイル-CoA のピリドキサール-5′-リン酸 (PLP) 依存的脱炭酸縮合反応を触媒し、3-ケトジヒドロスフィンゴシン (KDS) を形成する。またSPTはその柔軟な基質認識から L-グリシンや L-アラニン、L-ホモセリンからも対応する生成物を合成することがわかっている。また我々のグループは Sphingobacterium multivorum 由来の SPT を用いて高濃度 D-セリンとパルミトイル-CoA をインキュベートしたところ、KDS が合成されることを確認した。一方で、この KDS の2位炭素は不斉中心であり、その立体構造は原料のアミノ酸立体構造に由来するとされている。しかし、これまでに代謝夾雑系の中に存在する極微量な KDS の立体構造を科学的に証明した例はなく、またその分析法も確立されていなかった。そこで本研究は極微量な KDS の検出を可能にする蛍光標識化とキラル HPLC の組み合わせによる立体構造解析法を確立することにした。また Sphingobacterium multivorum 由来 SPT に合成される KDS の立体構造についても解き明かすこととした。はじめにキラル HPLC 分析のスタンダードとなる L-KDS と D-KDS について有機合成によって調製した。次に KDS の蛍光標識化を検討するとともに、L-KDS および D-KDS を分離可能なキラル HPLC についても検討した結果、蛍光基に 7-メトシキクマリン、キラル HPLCにダイセル社の CHIRALPAK IB を用いた組み合わせにより L-KDS を 7.7分、D-KDS を8.9分の保持時間で分離することに成功した。尚、7-メトシキクマリンをKDS に導入する際に KDS のラセミ化反応は一切確認されなかった。続いて Sphingobacterium multivorum 由来の SPT に代謝された KDS の立体構造についても解析したところ、L-セリン由来および D-セリン由来どちらの場合においても KDSがラセミ体で合成されているというユニークな結果となった。この結果を受け、我々はより詳細な縮合反応機構を検討したところ Sphingobacterium multivorum 由来 SPT はセリンのラセマーゼ活性を有することが確認された。また D-セリンにソーキングした SPT 結晶構造解析から PLP-L-セリンアルジミンと同じ電子密度の結果が得られ、これは活性部位に捕捉されたD-セリンのラセミ化物と解釈した。一方 α-メチル-D-セリンをソーキングした SPT 結晶構造からは PLP-α-メチル-D-セリンアルジミンが見られ、これはラセミ化前の D-セリン–SPT 複合体を模倣していた。これらの酵素学的、構造学的解析から D-セリンからの KDS 合成は一度 L-セリンへのラセミ化反応がおこり、その後パルミトイル-CoA と反応する結果であるということが明らかになった。今後は KDS のラセミ化機構についての解明を目指したいと思っている。
今後の抱負
この度は、セラミド研究会 Young Investigator Award を頂きまして、大変光栄に存じます。本研究は、北海道大学大学院先端生命科学研究院、門出健次 教授の研究室で行われたものであり、ご指導、ご協力いただいた門出健次 先生、谷口 透 先生ならびに日夜研究に邁進していただいた学生の皆様に厚く御礼申し上げます。また共同研究者であります大阪医科薬科大学の生城浩子先生、矢野貴人先生には厚く感謝申し上げます。この受賞を励みに、さらにスフィンゴ脂質の研究を化学の視点から発展できるよう一層精進して参る所存です。
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