竹田 翔伍（オリザ油化株式会社 研究開発本部 新商品開発部）

受賞演題名
米由来新規アシル化グルコシルセラミドの化学構造および表皮保湿作用

この度は栄誉あるセラミド研究会 2023 年度 Young Investigator Award を賜りましたことを大変光栄に存じます。入社初年度から本学会に参加させていただき，10 年目の節目となる今年度に受賞となりましたことも感慨深いです。

今回の受賞対象となった研究は，米油製造時の副産物から，これまでに報告事例のない新規アシル化グルコシルセラミド 3 種類を単離，構造決定し，さらに皮膚バリア機能に及ぼす影響を評価したものです。米油副産物中の未知セラミドの存在は数年前から示唆されていましたが，その分離・精製に時間と工夫を要しました。今回，ようやく物量を確保するのに至った 3 成分について，NMR および高分解能 ESI-MS スペクトルの詳細な解析および分解反応によって構造解析を行った結果，GlcCer [d18:2(4E,8Z) /20:0] のグルコースの 6位に脂肪酸 (1: パルミチン酸，2: オレイン酸，3: リノール酸) が結合したアシル化グルコシルセラミドであることが明らかになりました (図1)。 これらは単離報告のない新規化合物なので，イネの学名にちなんでoryzaceramides A, B, C (1–3) と命名しました。
さらに，これらの生理活性としてヒト表皮三次元培養モデルの経表皮水分蒸散量 (TEWL) に及ぼす影響を評価した結果，oryzaceramide A (1) のみが TEWL を減少させ，皮膚バリア機能を向上させることが明らかになりました。

図１. 新規アシル化グルコシルセラミドの化学構造

当社では，米油を製造する際に副産物として得られるガム質からグルコシルセラミドを高濃度化し，食品・化粧品原料「オリザセラミド^®」として 1999 年より四半世紀に渡って販売を続けてまいりました。その間，スフィンゴ糖脂質の成分研究も精力的に行ってきました。その理由として，植物由来グルコシルセラミドが皮膚バリア機能の改善作用を有することは広く知られていましたが，それらの知見の多くは複数の分子種のグルコシルセラミド混合物としての知見でした。そのため，単一分子種としてのグルコシルセラミドや共存物質の寄与を明らかにする必要性を感じました。そこで私たちは，これらをマテリアルサイエンスの観点から解明すべく，いわゆる米由来グルコシルセラミド含有分画に含有される成分をそれぞれ単一分子種として単離し，構造解析による同定，活性評価を行ってきました。本研究の遂行にあたり，近畿大学の森川敏生教授には終始ご指導を賜りました。その結果，2015 年にはβ-シトステロールグルコシド (BSG) を単離し，これが角層セラミドを増加させることを明らかにしました。2020 年にはグルコシルセラミドを 13 種類，その翌年にはセラミドを 6 種類単離・同定し，皮膚バリア機能における構造活性相関を明らかにし，本学術集会において発表してまいりました。皮膚バリア機能の評価では宇都宮大学の芋川玄爾特任教授に格別のご指導を賜り，私の学位論文の礎になりました。このような過程を経て，今回の新規アシル化グルコシルセラミドの発見に繋がりました。この度の受賞は今回の発表に限らず一連の研究を継続してきたことを評価していただいたものであると勝手ながら考えております。

本研究発表に関して，九州大学の伊東信名誉教授や理化学研究所の平林義雄先生をはじめ多くの先生方から，大変貴重なコメントを頂戴し心より御礼申し上げます。今後も当社の研究がセラミド研究会の発展ならびにそれを通じた人々の健康の維持・増進に寄与できれば幸いです。

付記

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